東京高等裁判所 平成元年(行ケ)200号 判決
一 請求の原因一ないし三(特許庁における手続の経緯、本願考案の要旨及び審決の理由の要点)は当事者間に争いがない。
二 右当事者間に争いのない本願考案の要旨に成立に争いのない甲第四号証(以下「本願明細書」という。)を総合すれば、本願考案は、表面に断面波形の凹凸条を設けた桟材の木口に〓及び抱き縁を成形するために使用する面〓カツターに関するものであること、この種面〓カツターにおいては、従来、<1>桟材の表面に設けた断面波形の凹凸条の形状が異なる毎に面〓カツターを取り替えなければならないため経済的に不利であり、また、<2>刃体の先端外側縁に設けた波形状の抱き縁成形刃には、必ず先端内側縁に設けた側面平刃に対して平行する部分があつたから、縦桟と横桟を組立てたときにその交差部分に表れる接合線が折れ線になつてしまい、美的でかつ強固な枠組が得られないという欠点があつたこと、本願考案は、右<1>、<2>の欠点の解消を目的として、前記本願考案の要旨のとおりの構成(実用新案登録請求の範囲の記載に同じ。)を採用したものであることが認められる。
三 取消事由に対する判断
1 取消事由(1)について
(一) 審決における、引用例中にも抱き縁成形刃に側面平刃に対して平行する部分がないようにする点の記載があるとの認定が引用例のB図(別紙図面(二)B)に基づくものであること、引用例には右認定の点に関し文言としての記載がないこと及び右別紙図面に示された面ホゾカツターの各部位が同図面に付記のとおりの名称であつて、本願考案の面〓カツターの同名の部位にそれぞれ対応することは当事者間に争いがない。そして、成立に争いのない甲第二号証によれば、右B図は、引用例記載の面〓カツターの切削加工例を示す説明図にすぎず、それ自体、設計図の如く正確なものではないことが窺われるうえ、その点を措いてB図を仔細に検討してみても、同図に示された面ホゾカツターの抱き縁成形刃に、果たして側面平刃に対して平行な部分が含まれているか否かの点は判然としないといわざるを得ない。
(二) しかして、引用例に一定の技術的思想の開示があるとするためには、その技術的思想に関する示唆が引用例から明瞭に読み取れる必要があることはいうまでもないところ、右のように、抱き縁成形刃に側面平刃に対して平行する部分がないようにするとの技術的思想を読み取ることが困難なB図に基づいて(前掲甲第二号証中に他に右技術的思想に関する示唆を確認するに足りる記載はない。)、引用例中にも抱き縁成形刃に側面平刃に対して平行する部分がないようにする点の記載があるとした審決の認定は、原告主張のとおり、合理的根拠を欠くものである。そうであれば、右審決の認定は誤りであり、右誤りを前提にして、本願考案と引用例記載の面〓カツターが、抱き縁成形刃に側面平刃に対して平行する部分がないようにした点でも一致するとしたものであることが明らかな、該一致点に関する審決の認定も、また誤りというほかない。なお、被告は、本願考案における補正の経緯に触れるなどして、一見、抱き縁成形刃に側面平刃に対して平行にみえる部分があるが、該部分を仔細にみれば側面平刃に対して若干傾斜しているのが分る点では、右補正の根拠となつた本願考案の出願当初の明細書の添付図面第三図も引用例のB図も変わりがない旨主張しているが、補正の経緯はともあれ、本願明細書(前掲甲第四号証)においては、実用新案登録請求の範囲及び考案の詳細な説明の項にも、その面〓カツターの抱き縁成形刃を側面平刃に対して平行する部分がないように構成する点が明記されているのに対し、引用例中には、前記のとおり、その点に関し文言としての説明もないのであるから、両者を同列に論じることができないことはいうまでもない。
(三) 次に、側面平刃が面〓カツターの中心軸に直交する面に対して平行である限りにおいて、本願考案の「抱き縁成形刃には側面平刃に対し平行する部分がなく」との構成により、組立てられた縦桟、横桟の交差部分に表される接合線が折れ線にならずに直線状に表示されて美的な枠組が行われるとの本願明細書記載の作用効果(前掲甲第四号証の明細書七頁八行ないし一六行)が得られることは当事者間に争いがないところ、被告は、本願考案の側面平刃は面〓カツターの中心軸に直交する面に対し傾斜(テーパー)を有するとの解釈を前提として、右作用効果は本願考案の構成から必ず奏される効果ではない旨主張している。そして、右解釈の理由は、本願考案の実用新案登録請求の範囲には「抱き縁成形刃には側面平刃に対し平行する部分がなく」との記載に引き続き「両刃の刃幅を先端から中心に及ぶに従つて幅広く成形してなる」との記載があり、右にいう「両刃」とは抱き縁成形刃と側面平刃とを意味するから、該記載は、抱き縁成形刃の刃幅と側面平刃の刃幅のそれぞれに対し面〓カツターの中心軸に直交する面に対する傾斜(テーパー)を持たせることを意味するというにある。
たしかに、右記載にいう「両刃の刃幅」の意味は必ずしも明確とはいいがたく、実用新案登録請求の範囲の記載による限り、被告主張のような解釈の余地もないとはいえない。しかしながら、実用新案登録請求の範囲の記載の解釈は、その記載全体の趣旨や考案の詳細な説明の項の記載及び図面をも参酌してなされるべきところ、前掲甲第四号証によれば、考案の詳細な説明の項には、実施例に関してではあるが「図面第3図に示す様にこの刃(5)には側面平刃(4)に対し平行する部分がなく、両刃の刃幅を先端から中心に及ぶに従つて幅広く成形してある」(明細書三頁二〇行ないし四頁三行)との記載があり、該第3図には面〓カツターの中心軸に直交する面に対して平行な側面平刃が図示されていること、本願考案の面〓カツターの使用方法に関する記載(同五頁一一行ないし六頁一二行)中に引用された第4図、第8図の切削案内線a・a、b・bとも、その切削に使用される側面平刃が面〓カツターの中心軸に直交する面に対して平行であることを前提とするものであることが明らかであること、その他の添付図面各図を含め、考案の詳細な説明の項及び図面中には、本願考案の側面平刃が面〓カツターの中心軸に直交する面に対して平行であることを示唆する記載はあつても、被告主張のような傾斜(テーパー)を有するものであることを示唆する記載は一切見当たらないことが認められる。のみならず、本願考案の「抱き縁成形刃には側面平刃に対し平行する部分がなく」との構成が従来の面〓カツターの前記二の<2>の欠点を解消することを目的とするものであることは前掲甲第四号証に徴し明らかであるところ、仮に前記記載を被告主張のように解釈した場合は、右構成はその目的との関係で殆ど意義を失つてしまうことになることを考慮すれば、同構成は、被告も接合線が折れ線にならないための要件であると認める、「抱き縁成形刃に面〓カツターの中心軸に直交する面に対し平行な部分がないようにする」ことを意味するものであり、したがつて、そこにいう「側面平刃」は面〓カツターの中心軸に直交する面に対して平行なものであることを当然の前提としているものと解するのが相当である。以上によれば、被告指摘の記載は、抱き縁成形刃の刃幅と側面平刃の刃幅のそれぞれに対し面〓カツターの中心軸に直交する面に対する傾斜(テーパー)を持たせる意味のものとは解しがたく、むしろ、原告主張のように、抱き縁成形刃に関して、その傾斜が中心に及ぶに従つて幅狭くなるようなもの、すなわち逆テーパーではないことを示す程度の意味しかないものと解さざるを得ない。
したがつて、本願考案における抱き縁成形刃に側面平刃に対して平行する部分がないようにする構成は、少なくとも、縦桟、横桟の交差部分に表される接合線が折れ線にならずに直線状に表示されて美的な枠組が行われるとの本願明細書記載の作用効果を奏するための必須の構成であるといい得るから、この点に関する審決の前記引用例との一致点の認定の誤りが審決の結論に影響を及ぼすべきことは明らかである。
2 そうであれば、原告主張の取消事由(2)について検討するまでもなく、審決は違法として取り消されるべきである。
四 よつて、原告の本訴請求を認容する。
〔編注1〕本願考案の要旨は左のとおりである。
中心に軸の取付孔を設けた主体の外周に間隔的に刃体を突設し、該刃体の先端内側縁に側面平刃を、外側縁に予め組立てんとする桟材の表面に形成せんとする凹凸条に合致する形状の二枚〓用の凹凸面と一枚〓用の凹凸面との成形が出来る波形状の抱き縁成形刃を設け、且つこの抱き縁成形刃には側面平刃に対し平行する部分がなく、両刃の刃幅を先端から中心に及ぶに従つて幅広く成形してなる面〓カツター(別紙図面(一)参照)。
〔編注2〕本件における図面は左のとおりである。
図面(一)
<省略>
<省略>
図面(二)
<省略>
(他は省略)